夜に迷い込み、夢と踊る。
みんなは子どもの頃に見た夢を覚えているだろうか?
わたしは熱にうなされると、決まって見る夢があった。
赤鬼と青鬼に両脇を固められ、迷路のようなアリの巣へ連れていかれる夢。
その先に何があるのかも、どこに向かっているのかも分からない。
疑問に思うこともなく、夢の中では奇妙で不思議な出来事も
当たり前のことのように受け入れてしまう。
ふと、あの頃に見ていた夢を思い出した。
その夜、わたしが最初に目にしたのは
暗闇に包まれた森に重く響くおどろおどろしい環境音だった。
「はーん、これはホラー系だな?」
怖いコンテンツが大好きなわたしは、一瞬で胸が高鳴った。
黒い森を照らす赤い月、彷徨う赤みを帯びたひとだま。
何やらひとだまたちは、吸い込まれるように
地面に空いた白い光を放つ穴へ向かっているらしい。
暗く不気味な空間で、魂が向かう先…
「この先が地獄か...…?」
とてもこの先で天国がわたしを迎えてくれるような空気ではなかった。
それでも、ホラーな雰囲気ですっかりハイになったわたしは恐れることなく
ひとだまを追いかけ、その穴に入ってみることにした。
白い光に包まれ足を着くと、そこは無機質な縦穴の空間だった。
壁からは血管のような管が伸び、その先は奥の洞窟へと繋がっている。
見上げていると視界の端に何か動くものが見え、視線を落とすと
半透明の小人が一目散に奥の洞窟のような穴へ向かっていた。
血管のようなものが伸びるその空間は、生き物の臓器の中のようだった。
先ほどまで魂のようなひとだまを追いかけていたと思ったら
今度は半透明の小人を追いかけている……
小人についていくと、空間は一変した。
黒く暗い部屋に赤いライトが灯され、鉄に囲まれた空間。
壁には先ほどの空間から続く管が走り、巨大なスピーカーまで置かれている。
地下のナイトクラブって感じがする。行ったことないけど。
そして何より目を引くのは、部屋の真ん中に浮かんだ白い球体。
ふよふよと浮かぶそれを眺めていると、見覚えのある白いひとだま達が球体へ吸い込まれていった。
「ひとだま達がここに集まっている……?」
そういえば、最初に聞こえていたのはオルゴールのような音色だった。
そこにいた半透明の小人も相まって、なんとなくゆりかごを連想していた。
ここまでの景色を繋ぎ合わせていると、わたしの中にひとつの想像が浮かんだ。
もしかしてどこかへ向かっているんじゃなくて
そんなことを考えてしまった。
このナイトクラブのような空間にいるのに、なんだか母親の胎内にいるようで……
もっともっと遠い、生まれる前の記憶に触れているような感覚もあって……
色々な感情が渦巻いて、ここまで来るだけでも頭のCPU稼働率は高負荷だった。
恐る恐る白い球体に触れると、突如、正面の巨大スクリーンに60からのカウントダウンが始まった。
「これはライブなんだ!」
徐々に明かりが灯り、白いひとだまが一か所に集まって、一つの形になっていく。
カウントが0になると、再び暗転した。
暗闇の中、正面から、横から、そして後ろから音が聞こえてくる。立体音響だ。
自分の周りを回る音に驚いていると、正面のスクリーンに大きく『KIKUO』の文字が現れた。
そしてスクリーンの下にあるDJブースに可愛らしいマスコットのような子が!
※この子がKIKUOさんではないということには、後々気づくことになる。
暗くてよく見えなかったが、正面はどうやらDJブースになっているらしい。
クラブには行ったことないけど、いわゆるダンスミュージックが好きなわたしは胸が高鳴った。
ライブではなく、DJプレイを体験するワールドだったんだ!
聞き覚えのある声だ、初音ミクだ!
スクリーンには音楽に合わせて映像が流れ、明滅したり、波打ったりしている。
自分は初音ミクの楽曲にも疎かったので、曲名も分からない。
だけど気づけば、HMDの重りを背負った頭をリズムよく振っていた。
徐々にテンポが上がり、曲の昂ぶりが最高潮に達しようというそのとき、異変が起きた。
……その瞬間だった。
スクリーンから映像が飛び出してきた
螺旋状の管が正面から飛び出し、そのままわたしの横を抜け、後ろへと流れていく。
驚いているうちに曲は変わり、今度は不穏な電子音とともに青紫の光を纏った黒い管が空間を覆い尽くしていく。
鳥肌が、指先から腕へ、背中へと広がっていくのが分かった。
そこから先は、理解しようとした瞬間にはもう次の景色へ移り変わっていた。
「MVの中に入ったみたい!」なんて言葉では足りない。
わたしは考えるのをやめた。
モノクロになった世界に、輪切りになった無数の人型シルエットが現れた。
何気なく自分の手に視線を落とすと
……わたしも、そのひとつだった。
無数のシルエットはゆっくりと一か所へ吸い寄せられ、やがてひとつの塊になっていく。
そのときには、もう自分の姿を見ることはできなかった。
わたし自身が、そのひと塊になっていたからだ。
それを理解するころには、唐突に目の前へ巨大な扉が現れた。
先ほどの子がゆっくりと扉を開く。
そこには、メルヘンでありながらどこか不穏な音楽とともに、言葉では言い表せない世界が広がっていた。
例えるなら、悪夢のジェットコースター。
巨大なもの、小さなもの。
かわいいもの、不気味なもの。
夢のような景色と、悪夢のような景色。
音楽に合わせて世界は目まぐるしく姿を変え、わたしの視界を飲み込んでいく。
かわいい。不気味。不思議。絵本みたい。生暖かい。
感じたことを単語で並べることしかできない自分の語彙力が悔しい…
そして曲が終わり、視界は暗転した。
「終わった…?」
そう思った次の瞬間だった。
爆発するように最後の楽曲が始まる。
世界はさらに加速した。
現れる。消える。大きくなる。小さくなる。
景色は目まぐるしく姿を変え、もう視界は追いつかなかった。
白い霞が視界を覆い、世界はゆっくりと溶けるように消えていった。
まるで、夢から覚めるように。
夜に迷い込み、夢と踊る。
そして踊り終えた”あと”には何が残るだろうか。
海に浮かぶ景色の残骸は、夢の跡地のようだった。
星くんが誘う、Kikuoの音楽体験ワールド。
- ワールド名
- よるとうげ -Yorutouge-
- 制作
- VR_SMEJ
- 音楽
- Kikuo
- 収容人数
- 最大32人
- ファイル容量
- 373.79MB
- Public公開
- 2024年10月14日
